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かえるばしょ

NAME:めろ

URL:Twitter:@melomskz

MASSAGE:だいすきなみすかずちゃんでひとつになれるなんて、なんて素敵な企画。

      アンソロジー楽しみにしています。

 

じゃーんけーんぽん!あーいこーでしょっ!よっしゃ!ぐーりーこ!

陽の短くなった冬の季節でも、子どもたちの遊びは変わらないらしい。笑みを浮かべその声のするほうへのんびり歩いていく。ずいぶん空気も乾燥して吹く風も刺すように冷たくなった。ぐるぐるに巻いたマフラーから出た鼻がつんとする。

「もー。三角星人、チョキばっか出すなよー」

「だってコレがいちばんさんかくに見えるんだもん」

「おれたちグーだけ出すの面倒になったって」

「え~」

近づいて聞こえた声に、静かに吹きだす。

この近くに住む子ども達はストリートACTはもちろん、ビラ配りや買い出しをしているときに顔なじみとなり、時々こうして一緒に遊ぶことがあるのだが。彼の場合は遊んであげているというより遊んでもらっているような印象を受ける。それでもみんな、「三角星人」こと斑鳩三角を変人扱いせず関わっているのはすごいことだよなあ、なんて他人事のように感心する。

さあて、三角星人さんに、本気を出してもらおうか。

「それじゃあこうしよー」

「うわ、びっくりした!」

「あ、かずだ~」

「カズナリミヨシ参上~☆このゲーム一番になった人が、べべの人の三角パイもらうっていうのはど~お?」

「・・・はっ!」

おやつにと買った某ファーストフード店の三角形お菓子を掲げると、子ども達の目が輝き、階段の下で立ち尽くしていた三角星人の眼がキラリと光る。よっしゃ!三角星人が本気になったぞ!さすがカズ君!子ども達の声を聞きながら三角を見ると、ドキリとするような妖艶な笑みをよこした。

▲▽▲▽▲

「オレ、かずが好きだよ」

獲物を追い詰めるような強い意志と色気を孕んだ眼に射抜かれ、逃げ場は無いと悟った。その眼で他人を見られたらと思うと腹が立つなという考えに至ったから、おれ自身もそうなのだろう。それでもすぐ頷くのは何だか癪だったから、少し考えさせて欲しいと言った。涙目で訴えるなんて渾身の演技をするりと乗り越えて、そんなかわいい顔してもだめ、素直に言ってと囁かれ腰が砕けるかと思った。おれもすき、という小さな声を拾った夕焼けのような眼は優しくとろりと溶けておれの中に染み込んでいった。

▲▽▲▽▲

あの人は、おれが見ている時だけあの眼をする。そういうところ、本当にずるいと思う。夕焼けを浴びて分かりにくいと思うけど、おれ、今、顔真っ赤だよ。でも眼が離せるわけもないから、恥ずかしくなりながらじっと見ていると今度は優しい笑みに変わった。あ、いつものすみー、だ。

「よ~し! 本気だすぞー」

「こい! 三角星人!」

子ども達との勝負に戻った三角星人だったが、健闘空しくあと一歩のところで負けてしまった。

「あ~~~~! オレのさんかく~~~!」

「あっぶねー! よっしゃ~パイもーらい!」

「あっ、ちゃんとウェットティッシュで手拭いてから食べんだよー」

「カズ君、かーちゃんみたいだな」

せめてとーちゃんにして、と笑いながら子ども達にパイを配り、項垂れた三角星人も見る。さんかくパイは帰りに買って帰ろうかな、なんて思っていると、一等になった子がふたつ持ったパイのうち、一つを三角に差し出した。

「・・・ほら」

「・・・・・・?」

「やるよ、こんなに要らねえし」

「いいの?」

「ホントはおれの戦利品だからな! ありがたく思えよ!」

「うん! ありがと~!」

あらら。優しい子だこと。満開の笑顔で御礼を言う三角に照れたような満足したような表情の子。ふっ、ほんとに遊んでもらってるみたいだなあ、なんてにやける口元を隠し見ていると、コチラを見てまた柔らかく微笑む。もう、おれはその顔に弱いんだって。

「わ、すげえ夕陽!」

「おー!」

「おお~」

その声に顔を上げると、街と空と雲を紅く染めた夕焼けが広がっていた。ああ、うん。大好きな眼と同じ色してる。だんだんと暗くなる空に佇むあかいろは、大好きな人の性格にも似ている。この色がゆっくり闇に溶けたとき、おれはいつも、大好きな腕に帰りたくて仕方なくなる。

「暗くなるのはえー」

「僕そろそろ帰んなきゃ」

「おれもー」

「おれも。・・・三角星人、カズ君、またねー」

「じゃーなー」

「パイありがとー」

「ありがとーバイバーイ!」

「じゃ~ね~」

「気をつけてねん」

子ども達を見送ってからもほんのりあおい空を見つめていると、そっと手が合わさった。チラリと見ると暗がりでもよく分かる夕焼け色が優しく見つめてくれている。ちょっと手を引っ張って近づく身体を寄せて唇を掠め取る。びっくりさせたかったのに、もっと甘くなるからおれのほうが落ち着かなくなる。

「かず、冷たいね」

「すみーはあったかいね」

「かずのこと、いっぱい温めてあげられるよ?」

えっと、それは・・・?どういう意味でとじっとり見るとくすくすと楽しそうな顔。まったく。おかしくなっておれも一緒に笑う。

「帰ろう、かず」

「ん」

陽が沈んで先ほどより冷えた空気のはずなのにぽかぽかした空気を感じる。ぐるぐるに巻いたマフラーから出た鼻も熱くて溶けそうだ。早く帰ろう。この手を引く腕の中へ。おれの大好きな笑顔を間近で見られるところへ。大好きな夕焼け色がとろとろに甘くなるところへ。

今日もいちにち、おつかれさま。

 


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